【2025年版】全戸FTTH構成: マンション向け光配線の設計・施工ガイド

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2025年4月から始まる「全戸FTTH構成」の実証実験は、マンションにおける高速かつ安定したインターネット接続の新時代を切り開きます。この画期的な技術により、将来的には10Gbps以上の超高速インターネットが実現可能となるのです。

私たちが注目するFT構成とは、各住戸まで光ファイバーを直接引き込む「光配線方式」(FTTR: Fiber to the Room)のことです。この方式では、Mini OLT技術を活用して既存のLAN配線に依存せず、最大64台のデバイスをサポートし、最大2.5Gbpsのダウンリンク速度を提供します。さらに、このシステムはA4用紙の半分ほどのコンパクトな設計となっています。

現在、テレワーク、動画ストリーミングサービス、IoTデバイスの普及により、高速インターネットの需要は急速に高まっています。そのため、マンションにおける通信環境の質と安定性を向上させることは、入居者満足度や物件価値の向上に直結するのです。

このガイドでは、2025年に向けた全戸FTTH構成の設計・施工における重要ポイントを解説します。ネットワーク機器の一元管理や遠隔監視といった運用効率の評価から、既存建物へのレトロフィット可能性まで、実践的な知識を提供していきます。


全戸FTTH構成とは何か?背景と導入の必要性

全戸FTTH構成は、マンションや集合住宅の各住戸まで直接光ファイバーを引き込む配線方式です。FTTHとは「Fiber To The Home(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)」の略で、収容局から個人宅まで光ファイバーを直接引き込む通信方式を指します。特に全戸型の場合、共用部だけでなく各戸まで光ファイバーで接続するため、高速かつ安定した通信環境を提供できます。

新型コロナウイルスの影響により、在宅勤務や在宅授業等でインターネットトラフィックが大幅に増加しました。2020年5月の調査では、前年同月比57.4%増という大幅な増加が記録されています。さらに、2020年11月集計でも前年同月比56.7%の増加が確認されました。このように、テレワークやオンライン会議、遠隔教育などの普及により、高速で安定したインターネット環境の必要性が急速に高まっています。

マンション等の集合住宅では、戸建て住宅と比べて通信速度が遅くなることが多いという指摘があります。これは主に、以下の配線方式の違いによるものです:

  1. 光配線方式(FTTH): 収容局から各戸まで光ファイバーで接続。最も高速で安定した通信が可能。

  2. LAN配線方式: 共用部までは光ファイバー、各戸までLANケーブルで接続。最大1Gbpsだが、混雑時に不安定になる可能性あり。

  3. VDSL方式: 共用部までは光ファイバー、各戸までは電話回線で接続。最大100Mbpsと遅い。

全国賃貸住宅新聞の調査によると、「高速インターネット(1Gbps)」は入居者に人気の設備ランキングで前年4位から3位に上昇しており、インターネットは入居者にとって必要不可欠になっています。また、緊急事態宣言後に「必要だと思うようになった」住宅設備について、「通信環境が充実していること」は43.1%で2位となっています。

このような背景から、全戸FTTH構成の導入は、単なる設備の向上ではなく、Society5.0時代の柔軟な働き方や暮らし方を実現するために不可欠な要素となっているのです。


設計段階で考慮すべき光配線構成要素

全戸FTTH構成を設計する際、まず考慮すべきは建物内の配線経路です。マンションでは通常、電話用のMDF(主配線盤)室から各戸へ光ファイバーを敷設します。ここでの効率的な設計が、将来的な保守性や拡張性を左右するのです。

設計時には以下の主要構成要素を検討する必要があります:

  1. PT(Premises Termination)盤: 電柱から棟内共用スペースに引き込んだ光回線の接続点となります。MDF室内に設置されることが多く、ここから各戸への配線が始まります。

  2. 光スプリッタ: 1本の光ファイバーを複数に分岐させる装置です。小規模マンション向けには、従来の2倍となる8個まで収容可能な小型化技術も開発されています。狭隘MDF・IDFに対応したスプリッタモジュールを選択することで、小規模マンションへの適用範囲が広がります。

  3. パッチパネル: 光ファイバーの接続・管理を行う装置で、配線の整理や変更を容易にします。100心毎に専用の配線ルートで管理することで、メンテナンス性が向上します。

  4. 配線設計: Uターン配線を採用することで、ケーブル同士のクロスが無く余長処理が可能になります。また、各戸まで光ファイバーを敷設する際には、既存の電話用配管やエアコンダクト、壁の穴などを利用することが一般的です。

特に小規模な物件(概ね10F建以下、総戸数80戸以下)では、縦系幹線ケーブルとPD盤を省略し、住戸からPT盤へ直接接続する簡略方式を採用することでコストと工期を削減できます。ただし、水平ケーブルは強度が劣るため、ケーブル保護とルート設計に十分な配慮が必要です。

自営光配線設備による住戸への光直接引込方式では、サービスの種類や提供事業者に関わらず使用できる汎用伝送路として、自営PT盤と住戸内の光アウトレットが一対一接続されるスター型構成が推奨されています。


施工・導入時の実務ポイントと注意点

マンションへの全戸FTTH構成の施工には、事前の確認と適切な準備が不可欠です。国土交通省のデータによると、2022年末時点で日本全国に約694.3万戸のマンションが存在し、そのうち約67%、つまり465.6万戸が築20年以上となっています。このような古い建物では特に注意が必要です。

施工前には必ず以下の確認を行いましょう:

  1. 建物の光回線導入状況: 物件情報や管理会社への問い合わせで確認します。すでに光配線方式、LAN配線方式、VDSL方式のいずれが導入されているかで工事内容が大きく異なります。

  2. 管理者からの許可取得: 外壁工事や壁への穴あけ作業が発生するため、事前に管理会社や大家さんの許可を取る必要があります。許可なく工事を実施すると、退去時のトラブルに発展する可能性があります。

特に築年数が古いマンションでは、光回線工事が難しい理由として、当時の建設基準で光ファイバー用の配管が不足していることが挙げられます。壁内のスペースが限られている場合や配管の狭さ、経路の複雑さが工事を難航させることもあるため、専門業者との綿密な打ち合わせが重要です。

工事の流れとしては、申し込み後に工事日程を調整し、契約者などが立ち会いのもとで実施されます。所要時間は約1~2時間が目安です。工事期間は問題がなければ約2週間で完了しますが、日程調整によっては1カ月程度かかる場合もあります。

課題解決のための技術的対応も進んでいます:

  • 中規模マンションの狭いMDF向けに「超小型SP」や「小型SP」が開発されています

  • 小規模マンションでは外壁配線技術が活用できます

  • 大規模マンションでは19インチラックへの高密度設置技術により、作業時間を約80%短縮できます

工事完了後も、退去時の対応を考慮しておくことが重要です。光回線の撤去が必要な場合は、契約プロバイダーに早めに連絡し、工事日を調整する必要があります。ただし、事前相談により撤去不要と判断されることもあるため、管理会社や大家さんとの相談を勧めます。

なお、全戸FTTH構成を導入する際は、時間帯による回線混雑で通信速度が遅くなる可能性も考慮しておきましょう。


結論

全戸FTTH構成は、確かにマンション住民の生活の質を大きく向上させる技術革新です。テレワークやオンラインエンターテイメントの普及に伴い、高速で安定したインターネット環境はもはや贅沢品ではなく必需品となりました。したがって、マンションオーナーや管理会社にとって、この技術導入は物件価値向上の重要な戦略と言えるでしょう。

特に設計段階では、PT盤の適切な配置や光スプリッタの選定、効率的な配線設計が将来的な保守性や拡張性を左右します。また、既存建物への導入においては、築年数や配管状況に応じた施工方法の選択が不可欠です。これらの要素を慎重に検討することで、工事の円滑化とコスト最適化が実現できます。

築古マンションでの導入には確かに課題が多いものの、超小型SPや外壁配線技術などの革新的ソリューションにより、以前は困難だった物件でも全戸FTTH構成が可能になりつつあります。さらに、通信事業者との綿密な協議により、退去時の撤去問題も事前に解決できるでしょう。

最後に、2025年に始まる実証実験は、日本のマンションインターネット環境の新時代の幕開けとなります。将来的には10Gbps以上の超高速通信が標準となり、Society5.0時代の住環境として不可欠な要素になるでしょう。私たちは今後も技術進化を注視しながら、居住者にとって最適な通信環境の実現に取り組んでいきます。

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